「タコ君の冒険」

 皆さん、はじめまして。僕、巨大ダコ!

 体長10m、体重250キロ。 普段は海の奥底に住んでいて、潜水艦を締め上げたり、ダイバーを捕食したり、菅野美穂のヌード写真集を違法アップロードしたりして暮らしている、どこにでもいる平凡な巨大ダコさ!
  そんな僕は今、高校生。学校ではクイズ研究会に所属していて、10本ある触手での早押しは大の得意!才能に溢れてる僕はクラスでも人気者。昔、漁師に銛で 突かれた時にできたおでこの傷が「ハーケンクロイツ」そっくりなので、クラスのみんなからは「ナチスドイツ」って呼ばれているんだ!
 

  普段は温和な僕なんだけど、今日は両親と大喧嘩。家を飛び出してしまいました。だって父さんも母さんも、僕が大切にしていた夢野久作全集を切り刻んで、「大衆芸能 の雪」にしちゃったんだもん!僕の大事な夢野久作全集で、感動的なラストを演出するなんて許せない!

 こんな柴田理恵みたいな魚しかいない真っ暗な海なんか 退屈だし、折角なんで地上に上がってみることにしました。

 地上に上がってまずびっくりしたのは、「ハマダー」がもういないってこと!ダウンタウンの浜ちゃんそっくりなファッションの「ハマダー」が最先 端のトレンドだと思ってたのに、そんな格好をしている人が一人もいないの!確かに、深海には95年のホットドックプレス以降の雑誌が入荷されてないので、 トレンドが変わってしまうのも無理はないかもしれないね。どうやら、今じゃ、ダウンタウンも、タバコ吸いながらジャージで収録とかしてないみたいだし。

 
 しばらくは行き場もなくウロウロしていましたが、なんと今日のはなまるマーケットの「はなまるカフェ」に、僕の大好きな生島ヒロシが出るっていう情報を入手したんで、生島ヒロシの出待ちをすることにしました!
  でも、ここは初めての地上。TBSがどっちにあるのかもわかりません。どうしましょう。人間の文化もよくわからないので、移動手段もよくわかりません。8 本、計4組の触手で腕組みしながら考えていたら、「ファイ、オー、ファイ、オー」という声が聞こえてきました。声のする方を見てみると、エンジのブルマー を履いたママさんバレー集団です。ママさんの集団は、「Googleの次に情報収集に役立つ」と聞いたことがあるので、こっそり紛れ込んで人間文化を学ん でやろうと市民体育館に潜り込みました!
 
 
  裏口からこっそりと侵入すると、ちょうどトイレにいくところだったのでしょうか、香水の匂いをプンプンさせている、雑な顔の作りを旦那の稼ぎでカバーしてる系のママさんが通りかかりました。中途半端に茶色く染めた長髪が相まって、 B'zの松本にそっくりでしたが、エンジのブルマーからはみ出る尻肉が、なんとも言えないエロさを醸し出しています。「こいつにしよう」、と心に決めた僕 は、右から二番目の触手でユニフォームを脱がし、三番目で体を締め上げ、左から二番目の触手で「ちょちょい」と女性器をいたずらし、軽く性的欲求を満たし たところで、背骨を砕きました。
 ママさんは、
「モニフラッ!!」

と、全盛期のモーニング娘。が宣伝していたパイナップル味のジュースの名前を叫んだかと思いきや、血反吐を吐いて絶命しました。僕は、もう一度だけ「ちょちょい」と女性器をいたずらし、掃除用具箱に死体を隠し、ユニフォームに着替えました。

 体育館へ入ると、「池内さん、遅かったじゃない。何してたのよ!」とメガネの出っ歯ママさんに肩を叩かれました。どうやらバレていないようです。

 「よし、じゃあ池内、コート入れ!」
 なぎら健壱と同じ形のヒゲを蓄えたサングラスのコーチが僕に話しかけてきます。僕は促されるままに、コートに入りました。バレーボールなんてやったことがなかったのでボールが飛んでくる度ヒョイ、ヒョイと避けていたところ、なぎら健壱に
「マトリックスか!!おめえボールヒョイヒョイ避けやがってマトリックスか!「ウォシャウスキー兄弟作」か!」
と怒鳴られてしまいました。
 なぎらは、「マトリックスか!!おめえボールヒョイヒョイ避けやがってマトリックスか!「ウォシャウスキー兄弟作」か!」ともう一度同じトーンで言ったかと思うと、ずかずかとコートに入ってきて、ケツはこう、腕はこう、と身体にベタベタ触ってきました。その手つきは、もはや指導の領域を超え、ほぼペッティングと呼んでも差支えないものでした。
 いや、ペッティングでした。
  ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにと、中指で僕の下半身を刺激しつつ、「ねえ・・・、たまに・・・、川合俊一の顔の形にそっくりなじゃがいも、・・・、あ るよね・・・」と耳下で吐息多めで囁いてきます。よく見るとコーチはいつの間にかテンガロンハットを被っていて、もう風貌は完全になぎら健壱になっていま した。

 池 内さんにセクハラしているつもりでしょうが僕は巨大ダコだし、ノンケです。気味が悪いので、触手で監督の首を絞めると、みるみるうちに真っ青になりまし た。なぎら健壱の顔に青ペンキを塗った時を想像して頂ければわかりやすいと思います。コーチは、笛ラムネみたいな音を出して気絶し、僕が渾身の力で体を締 め上げると、縦にふたつ折りになりました。

 すると、今までコーチのセクハラに困っていたのでしょう。ママさんたちが拍手喝采で僕を取り囲みました。
 「池内さんありがとう!」
 「これからは純粋にバレーを楽しめるわ!」
 「縦にふたつ折りになってるわ!ずっと見てると、山折りに見えてたのが谷折りに見える瞬間がある!」
 などなど、たくさんの感謝のことばを投げかけられました。
  そして、練習に参加してみてわかったのですが、僕は腕が10本あるので、どうやらバレーが超強いのです。僕の打ったスパイクで、ラーメン屋の奥さんは二度 と湯切りができない体になったし、僕のトスで顎骨を粉砕骨折したママさんもいるくらいです。練習に練習を重ね、気がつけば僕は、エースアタッカーとして チームの中心にいました。
 
 
 それから一ヶ月。この日のために練習してきた、市民大会当日です。皆気合は十分。優勝だって夢ではありません。
 
 しかし選手登録の受付で、事件は起きました。
 
 順番に選手登録の受付で、名前を申告し、ゼッケンをもらい、試合に向かいます。ようやく僕の番になった時、受付の泉ピン子みたいなババアが言いました。
 「タコ・・・、だよね?」
 そうです。僕は巨大ダコです。人間でもなければ、ママさんでもありません。
 みんなうすうす勘付いているのかなと思っていたのですが、チームメイトたちがどよめき始めました。

 「本当だわ!池内さんだと思ってたけど、よく見たらタコだわ!」

 その声に感化されたのか、みんなが僕の方を睨んでいます。
 「言われてみれば!」
 「騙したのね!この化物ダコ!」 
 「目の錯覚を利用したのね!」
 会場中に「目の錯覚」コールが響き渡り、どこから持ち出したのか、ママさんたちは一人一本竹槍を持っていて、誰かの「であえー!」の声をきっかけに、僕はメッタ刺しにされました。
 結局、僕はその場で、どろろと同じくらいのパーツ数にちぎられ、ある部分は刺身に、ある部分は湘南名物たこせんべいにされ、打ち上げでみんなに食べられてしまいました。
 ああ、こんなことなら、バレーなんかやってないで、早めに生島ヒロシの出待ちに向かうんだった。
 そんなことを考えてももう遅い。生島ヒロシには、もう二度と会えないのでした。
 
〈終〉